会報 第128号
会長ご挨拶
全国肢体不自由特別支援学校PTA連合会
会 長 澤 村 愛
(東京都立光明学園PTA会長)
~ 潮流を捉えて ~
新しい年がはじまりました。令和2年の今年は、日本現存最古の歴史書である日本書紀が編纂されて丁度1300年です。日本書紀の冒頭に記された、国譲りの神話によりますと、出雲大社に鎮座する大国主の命は人間の能力を超えた神々や祭祀の世界をつかさどり、天皇は、大和の地で目に見える現実世界、政治の世界をつかさどるとされました。
古代において出雲と大和は、それぞれの世界を象徴する場所として重要な役割を担っており、今(1月15日から3月8日)東京国立博物館平成館をメイン会場にして、「日本のはじまりここにあり。日本書紀成立1300年特別展、出雲と大和」が開催されています。出雲と大和。島根と奈良。
又奈良の東大寺で行われる「お水取り」という神事がありますが、それに先駆けて行われる「お水送り」は、福井にある若狭神宮寺でとり行われます。若狭神宮寺から東大寺まで、その水は地下を通じてながれて行き、東大寺境内にある井戸に湧くのだそうです。福井から奈良へ、そして島根へ。日本の歴史があたかも、全肢P連の大会の繋がりのようで、とても嬉しくなりました。
1月の理事会では、全ての議事が滞りなく承認されました。皆さまのご協力に感謝いたします。大会における子どもの預かりも、議題にあがりました。現在大会では医療的ケアのあるお子さんの預かりをお断りしています。
一昨年の2月に出された国のまとめで、全ての学校においての付き添いは、真に必要な場合に限るべきだとその方向性が出されています。私達は国や世間に「医ケアは特別なものではありません。医ケアは体の一部です。医ケアがある事により、体調は安定するのです。どうぞ医ケアを怖がらないでください。医ケアは体に優しいものなのです。子どもの自立と学びの為に、医ケアの付き添いであってもこれを外してください。」とお願いしています。私たちが医ケアの預かりを牽引しないでどこが担うのかと思うのです。
しかし一方で、主催者には、大会を安全に遂行する責務があります。大会は普段の学校生活の場ではなく、全国から一同に集まる非日常の場です。子どもにとっては初めての場所、初めての遠出かもしれません。そして預かりを担当しているのは、医師の配置が無い中での看護師と支援学校の教職員、そして同じ障害児を抱える保護者仲間です。提出された書類による事前情報を基に、自分の経験と知識で何度も何度もシミュレーションをします。なぜなら、「命に直結する」ということを、他の誰よりも私達は身をもって知っているからです。実際に経験して知っている、見て知っているからこそ、初見で預かる怖さで神経をすりへらし、慎重になるのです。
まずは学校内のPTA行事から医ケアのあるお子さんの預かりを始めてみてください。そして都道府県の集まりへと進めて、各ブロックの大会から始めた医ケアのあるお子さんの預かりを、是非ともホームページ「しぴれん」へ投稿して全国で共有してください。皆で知恵を出し合い積み重ねていけば、ガイドラインが出来、やがては全国の大会でも実現が可能となります。
その日がくることを願い、皆さまへのご理解とご協力をお願いいたします。
大会では来賓として日本肢体不自由児協会様にご臨席を賜ります。日本肢体不自由協会は、私達の繋がりを創成期から支えてくださっている団体です。
「肢体不自由児は家の中に隠されている。障害がある子供達にも自立した生活を送る人生を提供しなければならない。その為には医療だけではなく、教育も必要である。」
医療・教育・職能の三つの柱を持つ「療育」の理念を、日本肢体不自由児協会の創設者であり「肢体不自由児の父」と称される整形科学博士の高木憲次先生は、提唱されました。高木先生は「療育」とは、時代の科学を総動員したものであらねばならない、とも述べられています。「時代の科学」とは、ともすれば医学をはじめとする自然科学のみを思いがちですが、社会システムを障害児にとってよりよいものへ変えていくための知恵となる社会科学や、支える人、支えられる人の心や行動を理解する為の人文科学も、科学の中に含まれるのではないでしょうか。
昨年12月に文科省より「GIGA構想にむけて」の大臣メッセージが発令されました。
Society5.0の社会の実現にむけ、これから6年かけて、学内全ての子供達に、一人一台のICT端末が与えられます。その為の学内の通信環境の整備がはじまります。特別支援学校ももちろん、その対象です。しかし手足に不自由のある子供達へは、端末へのアクセス手段の確保が大きな問題であり、その環境整備からが、まず必要です。
学校教育制度と福祉制度は性格の異なる行政サービスです。しかし手足に障害がある子供の実際の生活は、そこが一つになるとスムーズにいくことがあるのではと考えます。生活は一つなので実際には不可分の事が多いのです。福祉制度を利用して作成した日常使いの補助具をそのまま携えて学校に行き来している方は多数います。移動・付き添いなどの社会生活を送るうえで欠かせない福祉サービスも、「学校生活」という学齢期の子どもにとっての社会生活の中でも上手く併用できたらと、困っている保護者のお話を聞くにつけ思います。
「時代の科学を総動員」し潮流を捉えて、行政、学校、保護者の三者が柔軟に知恵を出し合い協力し合って、多様な多彩なニーズに応えられる、より良いシステムを作っていきたい。
新しい年の始まりに、私は思います。
相談役 ご挨拶
全国肢体不自由特別支援学校PTA連合会
相 談 役 田 村 康 二 朗
(全国特別支援学校肢体不自由教育校長会々長・東京都立光明学園校長)
4年間を振り返って
本会の活動は今、令和2年度へのバトンゾーンに差し掛かりつつあります。
私はこの4年間、全国特別支援学校肢体不自由教育校長会(全肢長会)を代表して、(全肢P連)会長の傍らを相談役として伴走させていただきました。伴走のバトンも次走者にお渡しする時期に差し掛かりつつあります。この節目に当たり、昭和33年の本会発足時から途切れなく手をつないで継走してきた両団体の最近4年間の道のりを振り返らせていただきます。
平成28(2016)年度
◇全肢P連会長のバトンが東京都立城北特別支援学校の竹内ふき子会長に託されました。
◇熊本地震により被害のあった会員校等への義援金による支援を、全肢P連と全肢長会が連携して全国に呼掛け、支援の輪が広がりました。
◇会運営にかかわる働き方改革として、各地の理事・評議員等の出張負担軽減を図るために、5月開催の役員会については取り止める決定をしました。代わってメールを活用した役員への事前提案検討方式等を導入しました。
◇全肢P連・全肢長会合同研究大会「宮城大会」が開催されました。東日本大震災時の体験を御講演していただき、災害対応についての学びも深めることができました。
平成29(2017)年度
◇全肢P連・全肢長会合同研究大会は、60回目の節目に当たり、記念大会として「東京大会」が開催されました。昭和33年の本会発足時には、東京都立光明養護学校(当時の名称)を会場に数校の参加から始まったこの大会が、途切れることなく回を重ね、参加者700名を超える大会へと発展してきたことを実感しました。
◇竹内全肢P連会長と全肢長会長(田村)の2名が、文部科学省所管の「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議」の委員委嘱を受け、約1年半の任期の中で、会員と学校の実態を踏まえた意見表明を重ねました。
平成30年度(2018)年度
◇全肢P連会長のバトンが東京都立光明学園の澤村愛会長に託されました。
◇西日本豪雨により、岡山県立倉敷まきび支援学校の水没等、大きな被害のあった会員校等への義援金による支援を、全肢P連と全肢長会が連携して全国に呼掛け、支援の輪が大きく広がりました。
◇全肢P連・全肢長会合同研究大会「福井大会」が開催されました。全米チアダンス選手権で何度も優勝した福井商業高校チアリーダー部JETSの演技を拝見し、全参加者が笑顔と元気をいただきました。
◇総務省所管「デジタル活用共生社会実現会議 ICT アクセシビリティ確保部会の構成員に澤村会長が委嘱されました。併せて全肢長会長(田村)も意見表明の機会を戴き、澤村会長と力を合わせて「1人1台のPCやタブレット環境の整備が不可欠、加えて支援機器や補助具及び機器調整や操作介助を行う人的な環境の確保も不可欠であることを意見しました。
◇全肢長会が新たに企画した第1回プレゼンカップ全国大会に、文科省と全肢P連が後援団体として加わってくださり、出場生徒の輝く姿が全国で広く報道されました。
平成31・令和元(2019)年度
◇全肢P連・全肢長会合同研究大会「奈良大会」が開催されました。オリンピック・パラリンピックイヤーの前年度、バリアフリー社会の推進、インクルーシブな社会つくりに向けての大きな弾みとなる大会となりました。
◇台風被害を被った会員校等への義援金による支援を、全肢P連と全肢長会が連携して全国に呼掛け、支援の輪が種別を超えて大きく広がりました。
◇全肢長会主催の第2回プレゼンカップ全国大会が開催され、澤村会長が審査委員として参画されるなど、全肢P連が力強く後援してくださり、出場生徒の輝く姿が各地で報道されました。
◇中央教育審議会に特設された「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」及び「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の二つの会議に特別支援学校長を代表して田村が委員委嘱を受けて加わることになりました。全国の肢体不自由特別支援学校の実態と課題、そして全肢P連の保護者会員の思いを胸に、意見表明の機会を得ました。(来年度末までの任期となります。)
令和2年度(2020)、新たな活動スタートを前にして
本会発足6年目の昭和39年(1964)に開かれたオリンピック東京大会は、同じ開催地・会場でパラリンピック大会も開催された初の大会でもあったそうです。しかしながら5歳だった私には、父に連れられて観戦しに行った国立競技場で広がる光景の記憶は鮮明なのですが、パラリンピック開催の事実は当時全く知りませんでした。先日深夜のTVで放映された当時のパラリンピック映像を始めて拝見して驚きました。競技用車いすではなく、通常用の車いすでの短距離走を競っていました。実は国内では在宅で通勤通学する方が極めて少ない時代であったため、多くの日本選手は療養所からの出場であったとのことでした。
あれから60年弱、社会環境や施設・設備、ユニフォーム・用具や生活環境の変遷だけでなく、社会の関心の高まりなど、時代の進展を実感しています。
しかしこれがゴールではありません。2020は一層の進歩に向けた新たな出発点なのです。この注目の年をリアルタイムで迎える皆さんに希望と未来が詰まったバトンをお渡しします。本会の更なる発展を確信しています。
各ブロック活動報告
■北海道・東北ブロック
秋田県立秋田きらり支援学校
PTA会長 佐々木 江美子
6月13日~14日に北海道大会を開催しました。1日目のPTA会長部会では、役員選出に苦労しているが、PTA活動や大会等に出席すると勉強なり、役員になってよかったということを発信していきたい。その時に必要な活動を設定したり、できるときにできることをする身の丈に合った活動をしたりしている等の話題があがりました。
2日目は、北海道真駒内養護学校の見学、講演が行われました。OKIワークウエルの方による「遠隔システムによる学び方、働き方の広がり」と題した講演では、通勤困難な重度障害者が自宅でパソコンとネットワークを活用してソフトウエア関連の業務をしていることが紹介されました。会場で、社員さんとやり取りをする場を見て、多様な働き方があることを知りました。また、求められる人材として、パソコンスキルはもちろん、仲間と仲良くできる、人の言うことを理解できる、自分の言いたいことを相手に伝えられることが大事というお話が印象的でした。
■関東・甲越ブロック
山梨県立あけぼの支援学校
PTA会長 小山 香奈子
元号が令和に改まった7月28(日)、29(月)の両日、山梨県甲府市甲府記念日ホテルを会場に第55回関東甲越地区肢体不自由特別支援学校PTA連合会及び校長会合同研究協議会を開催しました。参加総数396人(県外207人、県内189人 内訳 学校職員152人 保護者206人 児童生徒 38人)と盛会となりました。
初日は開会式に続き日本福祉大学福祉経営学部学部長・社会福祉法人睦月会理事長の綿祐二(わたゆうじ)先生を招き、「障害児者の将来設計について~家族が準備しておくこと~」と題した記念講演ののち、「PTA活動の活性化」「学校教育と医療的ケア」「子育てと生きがい」「子どもの自立」をテーマに4つの分科会に分かれ研究協議会を行いそののち懇親会で山梨のフルーツ、ワイン等を楽しんでいただきました。2日目は各分科会の報告に引き続きグループディスカッションで意見交換を行い、閉会行事で幕を下ろしました。参加者からは「大変有意義な時間だった」と好評でした。
■中部ブロック
三重県立城山特別支援学校
PTA会長 稲垣 美奈
令和元年5月16日~17日に三重県津市にて第1回中肢P連絡協議会総会・研究協議会を行いました。1日目の協議会では、グループ討議で各学校のPTA活動における課題や悩みなどを気軽に出し合い、共有することができました。2日目は、NPO法人TEAM創心 代表理事の小山隆幸氏に「ひとや社会とつながり、誇りを持って暮らし、一人ひとりが輝ける地域創りを目指して」と題してご講演していただきました。
第2回目は10月3日~4日に、第57回中部地区肢体不自由教育研究大会(岐阜大会)にて、「一人一人の生きる力をはぐくむ肢体不自由教育を目指して」をテーマに分科会を開き、三重県立城山特別支援学校PTAと富山県立高志支援学校PTAの2校が提案発表をしました。関心の高い内容で多くの質疑応答があり、2日目の連絡協議会でも引き続き活発な意見交換がなされ、各学校の現状を知るとともに、今後の各学校での取り組みへの参考になる貴重な機会となりました。
中部地区の保護者同士の繋がりは深く、今年度新しく役員になった私にも親切にフォローをしてくださいました。この温かい繋がりに感謝しています。
■近畿ブロック
奈良県立奈良養護学校
PTA会長 植月 智子
令和元年5月23日に、総会および交流会を行いました。
交流会では、今年度は「福祉」をテーマに各校が取り組みを発表、その後、意見交換会を行いましたが、各校共通の問題点を抱えていることも多く、今後の改善策に結びつけていけるとてもいい機会となりました。
1月23日には冬季研修会を開催予定です。
■中国・四国ブロック
岡山県立岡山支援学校
PTA会長 德永 有芳
6月6日~7日に総会およびPTA・校長会合同研究会 岡山大会を開催しました。国立成育医療研究センター「もみじの家」ハウスマネージャー 内多勝康氏を講師にお迎えし『医療的ケアがあっても安心して暮らし学びたい』と題してご講演をいただきました。また、研究協議では「医療」をテーマに島根県立松江清心養護学校による提案発表を受け、グループ討議において活発な意見交換がなされました。最後に倉敷成人病センター小児科部長 御牧信義氏からご指導を賜りました。
10月31日~11月1日には広島県立広島特別支援学校にて研修会を行いました。1日目の分科会では「福祉」「支援機器」「防災」の3つのテーマに分かれて話し合い、2日目の講演会では広島県立障害者リハビリテーションセンター副所長 志村 司氏の『生涯を通じての療育とは』を拝聴し、その子にとって本当に必要な療育とは何か?を深く考えさせられる機会となりました。
■九州ブロック
長崎県立佐世保特別支援学校
PTA肢体不自由部門会長 溝口 高根
「第56回九州地区肢体不自由教育研究大会長崎大会」が、令和元年10月16~18日に長崎県佐世保市で開催されました。
1日目は、PTA連合会・校長会・PTA会長会があり、PTA会長会においては「九州地区内各校における役員決めで工夫していること」、「防災についての取組」などについての意見交換を行いました。
2日目は、第6分科会において、「PTA・地域との連携」をテーマに、佐賀県立金立特別支援学校・沖縄県立那覇特別支援学校からPTA活動の取組についての発表があり、発表後は意見交換を行いました。
3日目は、本校にて学校公開(公開授業)・講話・PTA座談会が開催されました。PTA座談会では、STEPLAN株式会社 放課後等デイサービス「おとは」児童発達支援管理責任者 溝口記広氏による、「息子とともに」をテーマに、保護者・専門職・事業所の立場として、子供との関わり方の講演があり、その後グループに分かれて「わが家の子育て」についての情報交換や講演の感想についての座談会を行いました。
三日間の大会をとおして、九州ブロック内から多数の方に参加していただき、とても充実した研究大会となりました。