育てびと VOL.2|熊本| 自分の人生を自分で決めていくこと 障害者支援施設 愛隣館(社会福祉法人 愛隣園)

VOL.2|熊本|

自分の人生を自分で決めていくこと

障害者支援施設 愛隣館(社会福祉法人 愛隣園)

社会福祉法人 愛隣園は、1950年(昭和25年)に家庭裁判所少年観察事業「愛隣園」として創設されました。山鹿市津留の広々とした土地に、多様な福祉事業を行う愛隣園の施設が点在しています。豊かな自然環境のもと、良質な温泉、古代から近代 に至る歴史・文化遺産、伝統工芸・芸能、豊富な農林産物などを自慢とする土地柄の地で、65年間にわたって福祉事業をおこない、現在に至ります。

豊かな自然に囲まれた広々とした施設が民家の中に点在している

障害者支援施設 愛隣館に勤務して28年目。現在、愛隣館のサービス管理責任者である、辻 啓司さんにお話を伺いました。

辻さんは、関東の大学を卒業後、熊本に戻り、愛隣館職員となられたそうです。当初、児童養護施設を希望しましたが、障害者支援施設の配属に。熊本の地での長い経験の中からの障がい者の福祉についてはもちろん、地域における包括的な福祉が期待される中での愛隣館の取り組みについて話してくださいました。

ゆったりとした語り口のなかから、時折、確固たる信念を感じさせる辻さんのお話

「利用者本人のしたい」をひとつひとつ応えてきたから、今がある

―施設経営法人として、様々な取り組みをされていますが、どのような施設を経営されていますか?

いまは、

身体の障がいはあるものの活き活きとみんなと暮らす「愛隣館(障害者支援施設)」

子供達が共同で元気に暮らす「愛隣園(児童養護施設)」

お年寄りの笑顔があふれる「愛隣荘(軽費老人ホーム)」

暖かな安らぎの「愛隣の家(特別養護老人ホーム)」

という4つの入所施設を運営しています。

平成22年10月には、創立60周年を迎え、利用者450名を超えました。

―広く見渡せる土地の中にあって、施設の外に出ると、ゆったり風が流れているのを感じますね。

本部事務所から、少し離れたところに児童養護施設「愛隣園」があり、建物のそばのみかん畑でみかんの収穫もできます。子どもたちだけではなく、障がい者も高齢の利用者もみかんの収穫をします。

本部事務所の目の前には老人ホーム「愛隣荘」、多機能型ケアホーム「ぴあハウス」があり、子どももお年寄りも、障がいのある人も、皆が暮らす福祉の家です。

地域とのつながりを大切に

―愛隣園では、入所施設だけではなく、地域のためのサービスセンターもされていますね。どんな事業を行っていますか?

地域福祉サービスセンター「らいおんハート」の取り組みを行っています。

その中身は、多機能型ケアホーム「ぴあハウス」、地域福祉部サービスセンター「ホームヘルプ部」、愛隣館生活介護事業所 「デイケア部」、多機能型事業所「愛隣倶楽部」(生活介護事業・就労移行支援事業)、地域活動支援センター「ぴあぴあ」などがあります。

―取り組みも多岐にわたっていますが、どのような道のりによって、今に至っているのですか?

私が愛隣館での勤務を始めたころには、熊本には、当時、通所型の事業所がほとんどありませんでした。それで、平成3年(1991年)に身体障害者デイサービスセンターを始めました。食事や入浴・排せつなどの介護や日常生活上の支援を行いつつ、創作活動、または生産活動の機会等を提供しました。

現在、愛隣館の中にも、工房があって、いろいろな焼き物の作成などおこなっていますが、このころから、利用者と共に、様々な創作物を開発してきました。

平成11年4月になってから、重度の障害者が支援学校卒業後も在宅で家族と一緒に暮らしたいというニーズに応え、地域の中に、身体障害者療護施設A型を創りました。

地域とのつながりという点では、法人で夏祭りなどを企画して、地域住民の方や家族にも声をかけ、名前や顔を憶えてもらうなど、いろいろの工夫をしています。

愛隣工房の様子。陶芸を教えているのは、地元の作家 境 喜美代さん(左)

平成23年には、就労移行支援事業を開始しました。

熊本県でいうと、就労継続A型事業所※ がとても多いのです。山鹿市でも6か所で運営されています(2015年7月現在)。このことは、障がい者の自立にとっては、恵まれた環境だと言えます。仮に、最初に入った事業所が合わなくても、選択肢が多いということは、自分に合うところを見つけやすくなり、当事者やその家族の負担を減らすことができますから。

※ 就労継続A型事業所

雇用契約に基づいて、就労の機会を提供するとともに、必要な知識・能力が高まった者に対しては、一般就労への移行に向けた支援を実施すること。熊本では、複数の大手企業の下請けの仕事の受注も多いほか、農業に関しても、企業が経営している組織や、JAの手伝いなど、農作業を請け負うこともあり、A型事業所に対する地域の期待も高い。

―地域活動支援センター「ぴあぴあ」の位置付けとはどんなものなのでしょうか?

就労移行支援事業は、一般就労に向けて、事業所内や企業における作業や実習、適正にあった職場さがし、就労後の職場定着のための支援等を実施するものです。自分にあった仕事を見つけるために、様々な体験の機会があることは、とても大事なことだと思います。特別支援校に在学中から、地域に目を向け、自分の進路について、学校や保護者と共に考えること、実際に見学にいったり、仕事を体験することは大事です。

でも、もし、それが十分にできなかったとしても、地域活動支援センター「ぴあぴあ」で、十分に様々な地域との交流を体験して、「楽しい」とか「こんな仕事がしたい」「仕事ができるようになりたい」という意欲を育てて、就労移行支援事業で、職業体験をしていくという道筋が、用意されています。言わば、交流サロンのような位置付けです。そこで、一人一人が持つ潜在能力に、本人自身が気づくこともありますし、就労支援に携わる福祉職員が見出すこともたくさんあります。

「体力」「忍耐力」「コミュ二ケーション力」

―障がいを持つ人が、自立すること、あるいは就労するためにはどんなことが大切ですが?

松橋支援学校にも見学に行かれたんでしたね。松橋支援学校の生徒さんは、自己主張ができる卒業生が多いなあと思います。のびのびと育っている。就労を希望するのであれば、まず「トイレ」に行きたいっていうことは自分で何らかの形で伝えられるといいですね。社会の中で、集団の中での生活を続けるために必要なのは「体力」「忍耐力」「コミュ二ケーション力」だと思います。特別支援学校在学中から、子ども一人一人が、その子こどもなりに、これらを備えられるようにしていくことが大事だと思います。

―障がい者の自立や就労について学校や保護者に伝えたいことはありますか?

学校にも保護者の方々にも、特別支援学校卒業した時点で、その後の長い人生を送る場を見つけようとするのではなく、卒業後も、社会で生活するチカラをつけ、自分に本当に適した働く場や居場所を見つけていく生活ができることを知って欲しいと思います。また、在学中も、社会の中で自分のチカラを精いっぱい発揮して暮らしていくために、学校で、家庭で、地域で、様々な体験をして生活してほしいと思います。そして、私達、福祉事業者も、日頃から、学校や保護者、地域等と繋がりを持っていることが大事だと思っています。

―愛隣館は、長い歴史の中で、地域と豊かなネットワークが構築されているようですが、どんなつながりがあるか紹介していただけますか?

障害者の就労も含め、自立生活を支援するためには、様々なネットワークが必要になります。福祉・保健・医療・就労・住まい・防犯防災・地域交流など、暮らしに関係したネットワークは多岐にわたります。そのうえ、ひとり一人にあった、繋がり先があることが必要なので、私たちは、常にネットワークを広げ、そのつながりを強くしていく必要があると思っています。

―これからの福祉事業にネットワークは大切なことですね。愛隣館の職員の皆さんが心がけていることはありますか?

職員自らが常に「学ぶ」姿勢を持つことが大切だと思います。国家資格を取得するために勉強している職員はたくさんいます。社会の変化が著しい時代の福祉を担う職員にとって学ぶことは、知識や情報を得るだけではなく、自信をもって前向きに取り組むために、利用者の信頼をえるためにも大切なことです。

実は、愛隣館は、職員の離職率が低いんです。これは自慢のひとつです。愛隣館には、現在約100人の職員がいますが、風通しのよい、対話ができる職場環境をつくることを心がけています。

車椅子に乗っている坂田さん(左)と松島さん(中央前)は、社会福祉士の資格を取ってここで相談員として働いている。

―なるほど。こちらの施設にお邪魔して、職員の皆さんが元気で笑顔でいることが印象的です。でも課題はありませんか?

そうですね。

肢体不自由について考えれば、「肢体不自由の方のための福祉サービス事業所が少ない」ことが課題の一つだと思います。施設がないから、通所でも入所でも、かなり遠方から来られます。移動に時間がかかることも問題だし、家族との関係が希薄になることも問題だと思います。

もう一点は、日本全体の問題でもありますが、障がい者施設の「利用者の高齢化」です。65歳以上の高齢者となれば、高齢サービス(介護保険制度)にサービスを切り替えるところですが、長い間慣れ親しんだ、サービスを変えたくないと感じる方も非常に多いのが現状です。

また、利用者負担に関しても、介護保険サービスであれば、1割負担になりますので、これも、障害福祉でサービスを受け続けたいという考えに繋がっていきます。肢体不自由の施設が少ないうえに、このような実態もあり、非常に難しい問題だと思っています。

―よくわかりました。

本当に長時間インタビューに応えて頂いてありがとうございました。

社会福祉法人 愛隣園

http://www.aileans.com/index.html