【お宅拝見】居心地の良い暮らし 「みんなが楽」だと「みんな楽しい」

【お宅拝見】居心地の良い暮らし

「みんなが楽」だと「みんな楽しい」

K・淳子さん・雄太郎くん(横浜市在住)

家族の成長とともに、住まいの在り方は変わっていきます。

お家の中ってなかなか見ることができないけど、実際、みんなどうしてるんだろう?

どんな工夫をしているんだろう?そんな素朴な疑問から「お宅拝見」は生まれました。

今回お宅を拝見させていただいたのは、横浜市の閑静な住宅地にお住いのKさんご一家(父:Mさん 母:淳子さん 雄太郎さん17歳)。障害があってもやりたいことをやり、本人も家族もいきいきと生活したい。趣味のガーデニングや外出など余力の広がりを生み出す「住まい」づくりやご家族への思いなどを伺いました。

帰宅すると大好きなyoutubeを鑑賞するのが雄太郎くんの日課。ipadを置く固定台は便利。

1月某日、高校2年の雄太郎くんの養護学校からの帰りを待って、お母さんの淳子さんが笑顔で迎えてくださいました。煉瓦造りの洋風な外観。建物の奥には、春にはたくさんの花が咲くお庭があります。

雄太郎(ゆうたろう)くんのこと

「今身長が177センチもあるんです。中学校に入学して30cmのびました!まだ伸びているかも(笑)でも体重は45kgだから、抱っこしてもなんとか大丈夫。学校では明るくて自分の話しを返してくれる大好きな女性の先生がいるんです」と淳子さん。

「どんな先生なの?」と本人に聞くと、

「言えないよ。学校にきたら分かるよ。」と照れながら顔いっぱいの笑顔で答える雄太郎くん。そんな会話からインタビューは始まりました。

(以下:淳子さん談)

実はしゃべり始めたのは養護学校に入ってからで、しゃべらない子だと思っていました。幼稚園は健常のお子さんと通っていたのですが、みんなの元気に押されて静かでした。養護学校の先生方がゆっくり話をして聞いてくれて、気がついたら普通の会話ができるようになっていました。ずっと話したい気持ちが溜まっていたのだと思います。

今の学校は小学部の頃から少人数の学年で5人。そのうち男の子は雄太郎だけ。もっと同世代の男の子のお友だちと触れ合わせたいと、他の特別支援学校を希望しました。

結局、努力も虚しくその学校への入学許可は下りなかったのですが、高等部からは進路の話も入ってくるので、高等部も同じ学校に通っています。先生方も上下の学年との縦割り授業を工夫してくださり楽しく通っています。

家族のこと

お父さんは、一生懸命彼のことを見てくれています。

時間があれば、お出かけはヘルパーさん以外は、お父さんが連れて行ってくれることが多いです。

外に出るほうが刺激になると思って、しょっちゅうはいけないのですが、お出かけしたときはビデオを(車椅子の端につけて)撮って、家に帰って再生するのが好きですね。なぜか早回しが好き(笑)で、何度も見ています。

駅員さんになった気分になるのかな。本当は駅員さんになりたいみたいで、自分の映像を見ながら、手伝っている気分を味わっているのだと思います。

動画プレーヤー

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今使っているサービス

近隣の放課後等デイサービスに金曜日に通っていて、夕方5時くらいまで過ごしています。夏休みなども見てくれるので助かってます。ヘルパーさんと図書館に寄って、散歩をするのが楽しみのようです。それから、訪問介護事業所は、土曜日に移動支援を月3回、10:00から16:00まで利用しています。

それ以外は、今のところは、お風呂とかは全部まだ家でやっています。

「いいかげん、頼んだら」ってみんなに言われるんですけど、サービスが来ると構えてしまうし、入りたいときに入れたほうが気持ちが楽なので…。

この日は、18:00~訪問リハビリの方が来ていました。

住まいに求めるもの

この家は私が育った実家のあった場所に建てた家なんです。

住まいに求めることは、家族が安心して生活できるようバリアフリーにすること…。そして、人が集まりやすい空間で暖かく明るいお部屋に、お庭で好きなガーデニングができることですね。

階段があり車庫からも車いすの出入りは無理だった以前の家

スロープが付き、車庫からの導線もスムーズに

雄太郎くんの成長とともに

改修工事は大きく成長する前におこなったのですが、やっていなかったら今の生活はできませんでした。先輩方の話も参考に、早め早めに想像できたのが良かったと思います。私たちの介助が大変そうだと本人も気を使って「ごめんね」っと言ったりしていたので、バリアフリーになって家族が楽になれば、本人が一番幸せだと思います。

私自身は、花が好きでフラワーアレンジメントの教室を月に4回自宅で開いています。ほかにも、スクラップブッキングの教室を月に6回開いています。

これは、雄太郎が幼稚園の時から作り始めたアルバム作りで、教室を始めて10年になります。過去を大切にし、今作ることを楽しみ、過去に残せるアルバムなのです。私たちが亡くなったあと、一人っ子なので施設に入った後、どのように育ってきたかを残すために作っています。

生徒さんには、養護学校のお母さん方もいらっしゃいます。

自宅の庭で咲いていた花。ドライリースとしてさりげなく飾ってある。

自宅のワークショップの様子

過去を大切にし、今作ることを楽しみ、過去に残せるアルバム

家づくりでこだわった点

できるだけ動線を広くとることを心掛けました。浴室と脱衣所大きく、濡れてもいいようにタイル貼りにしました。(今となっては背が高くなり、それほど広くは感じないのですが…)

それから、玄関を広くして、車いすが置けるように。

リビングの真ん中は柱があって、あけられなかったのですが、車いすで回遊できるようにしました。実は柱の中には、洗濯機の収納とクローゼットになっています。

玄関は車いすが余裕で入れるスペースを確保し、段差も最小限に。

柱を中心に回遊できるリビング

寝るときは2階の寝室へ。ホームエレベーターには常に2階用の車いすを置いておく。

改修には、一生に1回しか使えないという住宅改修の補助金を活用しました。

新築時ではなく、後から補助金で、外のリフトとお風呂のリフト、2階トイレの手すり、玄関の手すりを付けました。前年度の納税額に応じて補助金が下りる制度です。

お風呂のリフト

外のリフト

脱衣所の手すり

日常はおむつを着用しているが、朝は2階のトイレで排泄。

改修については、リハビリセンターのPTの先生にきて見てもらい、手すりの必要な場所や知っておいた方がよい制度などをお聞きしました。手すりの高さ一つにとっても色々なので。

後から知ったのですが、お風呂を改修すると、お風呂を持ってきてもらうサービスは受けられないそうです。人だけ来てもらって、改修したお風呂にはいりなさい、ということのようですね。

1階平面図(クリックで拡大表示)

表)在宅支援経過(クリックで拡大表示)

出典:地域リハvol.12 No.7 2017年7月 特集)脳性麻痺者の加齢による変化と対応

P549-550 脳性麻痺者の成長に応じた環境整備の実際(著:西村顕・山本裕子)

今欲しいもの

学校で開催された福祉機器展で見つけたのですが、「カールくん」 という補助器具です。

家の中にリフトを取り付けるとなるとまた大工事なるのですが、「カールくん」があると、力を入れずに車椅子に座れたりするみたいです。これ以上重くなってきたら抱っこできないので、気になっています。

大変だった頃

彼は8ヶ月の早産で帝王切開によって生まれました。でも2000gあったんですよ。

生まれた病院では言われていなかったのですが、6ヶ月検診で医療センターの先生に脳性麻痺と診断されました。あまりのショックと不安で、そのとき偶然通った養護学校のバスを見るだけで涙が溢れました。今では楽しく通っている養護学校ですが(笑)

それから、療育センターで同じ境遇のお友達との交流があって、少しずつ「お母さん」としての自信とやる気をつけていけたと思います。

生後6ヶ月から療育センターでリハビリを受けました。その頃はリハビリで良くなる思ったので、横須賀にある病院にも毎日通っていました。

雄太郎くんの生活のこれから

handicap photo(naturalphoto-yokohama主催:柏田貴代さん撮影)

できれば卒業してもこの家で生活して欲しいですね。

でも、グループホームとか考えなきゃいけないのかな、とちょっと思うこともあります。まだ遠く先なんですけど、自分が体を壊したときに預かってもらえるところが、レスパイトの施設ではなかなかないので、これから少しずつサービスを入れていった方がいいのかな、と思っています。


<編集後記>

明るい日差しの注ぐ室内はどこも機能的で、必要なものがきちんと収納されていました。子どもの成長や家族の関係性の変化とともに最適な住環境を整えていくことは、それぞれの生活を大事にしながら、無理な負担を減らすことができます。これまでの介護のやり方に囚われず、その都度、専門的なアドバイスをもらうことで、新しい発想、時間、空間が生まれ、その余力が子どもの快適さにもつながっているのかもしれません。

終始にこやかで気遣いを忘れない淳子さん、人とお話しするのが大好きな雄太郎くん、突然の訪問を快く受けていただきありがとうございました。(S.T)