【働く現場コラム】日々思うこと

【働く現場コラム】日々思うこと

支援学校で福祉機器の体験会を開催しよう!

西村 顕(一級建築士)

横浜市総合リハビリテーションセンター研究開発課

私が働いている横浜市総合リハビリテーションセンターでは、理学療法士や作業療法士、ソーシャルワーカーなどの医療、福祉職が中心に福祉用具や住宅改造等の相談をおこなっていますが、私のような「建築職」がこの相談チームに加わっていることはめずらしく、当センターの大きな特徴のひとつとなっています。

私の役割は手すりの位置やスロープの角度、福祉機器などを本人や家族が使いやすいように考え、図面やイラストなどを用いながら家族や工務店、設計事務所に内容を伝えることです。

日々の住宅改造の相談の中で、低酸素脳症や重度の脳性麻痺のある子どもがいる家族からの依頼があります。相談の多くは、子どもが大きくなり、親の抱っこによる介助が大変になってきて、親はぎっくり腰も何回も経験しているという状況で、「なんとかして欲しい」という内容です。

ただ、子どもといっても20歳を過ぎている成人の方もたくさんいます。30歳代の娘さんを60歳代の父親が毎日抱っこでお風呂を入れていることもありました。このような現場に立ち会う度に、乳幼児期から同じような介助が何十年も継続されている現状に違和感を覚えることがしばしばありました。

もっと子どもが小さいうちから福祉機器や住宅改造の情報が適切に保護者に伝わっていれば、もう少し違った介助方法や住まい方があるのではないかと思うようになりました。

横浜市総合リハビリテーションセンター(横浜市港北区鳥山町 1770 番地)

そのような重度の障害がある子どもの住まいを少しでも改善したいと考え、まずは福祉機器に対する保護者の意識を探るために横浜市内の肢体系特別支援学校にアンケート調査を依頼しました。

その結果、とても興味深いことがわかりました。多くの保護者は福祉機器のひとつである「リフト」自体の存在はチラシや展示会等でよく知っていることが判明しました。ただ、子どもにリフトを体験させたことがある人はわずか1割だったのです。

リフトがあればすべて解決できるとは思っていませんが、私はこれまでの経験からリフトの設置環境や子どもの身体機能と吊り具との適合、保護者の操作能力等の条件が揃えば非常に有効に使え、家族のライフスタイルまでも改善できる有効な福祉機器のひとつであると考えていました。

そこで、この結果を特別支援学校の校長先生に伝えたところ、学校の中でリフトの体験会を開催することができるようになりました。

2011年度から「リフト体験会」と称して横浜市内の特別支援学校を巡回することをはじめました。一番はじめの学校では10組の家族が体験しました。参加者が初めてリフトを体験する場合は、リフトを体験する前と体験した後でアンケート調査をおこない、体験による心理的な変化を分析しました。

その結果、体験前後で保護者の意識が大きく改善されることが分かりました。リフトの印象や操作感などが体験前と比べると有意に向上しているのです。このような調査をおこないながら、横浜市内のすべての特別支援学校でリフト体験会を実施してきました。

その後、少しずつではありますが、学校に通う子どもからのリフトの相談件数は増え、自宅に導入する家族が増え始めました。リフト体験会が保護者の意識を変えるひとつのきっかけとなったのではないかと思います。

当初リフトは特徴の異なる3社のリフト(据置式、固定式、掛け替え方式)を用意していたので、同時に体験できるのは必然的に3組になります。リフトの体験は、1組あたり30分程度時間を要します。ですから、リフト体験会に参加してもリフトを体験していない間は、待ち時間がとても長くかかります。

体験型のブースも設置し、待ち時間も楽しく過ごせるように工夫

1校目の体験会の時にそのことに気づき、2校目からは、待ち時間対策としてタブレット端末や座位保持クッションの展示をおこなうようにしました。そしてその待ち時間対策として展示した福祉機器の種類がどんどん増えていき、段差解消機や階段昇降機、スヌーズレン、訪問入浴体験、福祉車両の展示まで拡大していったため、途中から「福祉機器体験会」と名前を変えて実施するようになりました。

展示スペースもはじめは、校内の教室やプレイルームだったのですが、学校によっては体育館でおこなうこともあります。また、横浜市内の特別支援学校だけではなく、近隣の川崎市や相模原市、鎌倉市の特別支援学校でも希望を募り体験会を実施してきました。2011年度は5校でスタートした体験会は、2016年度には11校まで拡大しました。

「毎日忙しいので東京の福祉機器展まで行くのが大変。通いなれている学校で体験できるのはありがたい。」 「東京で開催する大規模な福祉機器展は、入場者が何万人もいるので、子どもと一緒に行った時はお互い疲れて体調を崩したことがある。」等々。当初はリフト体験の効果検証を目的で実施していたのですが、参加の保護者からこのような感想や意見があったのです。

私はこの体験会を通して、保護者は福祉機器の情報が知りたくても、なかなかその情報にアクセスすること自体が困難だという現状を知ることができました。

福祉車両の展示

また、学校で福祉機器の展示会をすることは、教員への情報提供にもつながります。教員が福祉機器に対する知識を得て理解してもらうことは、子どもの自立支援や保護者との情報共有という視点からもとても重要だと思います。

身近に福祉機器や住宅改造の情報にアクセスできるシステムを構築し、将来を見据えた支援や保護者や支援者(教員等)の意識を変える取り組みはますます必要なことだと痛感しています。このような取り組みが日本全国に広がっていくことを期待しています。

〈参考文献〉

西村 顕:列島縦断ネットワーキング 神奈川「学校で福祉機器を体験しよう!」、ノーマライゼーション、第36巻第10号、PP.59-61、2016年10月