VOL.2 |埼玉|
災害から自分を守るチカラをつける!
埼玉県立日高特別支援学校

児童・先生・家庭みんなで取り組むことを目指して

東日本大震災は、児童生徒等の多くの尊い命を奪い、多数の学校に甚大な被害をもたらしました。大震災は、学校教育関係者に、防災意識の向上や災害発生時の迅速かつ適切な避難行動など、防災教育・防災管理の重要性をあらためて示しました。

埼玉県立日高特別支援学校は、平成26年度、内閣府主催「防災教育チャレンジプラン」で、防災優秀賞を受賞しました。災害時に身体が不自由な生徒をいかに避難させるかという特別支援学校が共通に抱えているに違いない難しいテーマに対して、緊急地震速報を用いた避難訓練、そして引き渡し訓練の実施、職員研修による校内危険個所の洗い出しなど、着実に検討を積み重ねていることが大きく評価されました。

広々とした敷地に校舎が広がる

 

今回、日高特別支援学校を訪ねて、具体的にどんな取り組みをされているのか取材しました。取材に応じて下さったのは、「午前中プール指導だったんです」と話す、明るい笑顔が印象的な齋藤先生。

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日高特別支援学校の防災教育は、肢体不自由の児童が、「災害から自分の命を守るチカラをつける!」ことを目標に、様々な工夫を凝らし、日常的に行われています。防災教育は、災害に見舞われた時に、児童生徒が実行できなければ意味がありません。もちろん先生も同様です。そして、学校と家庭の連携も不可欠でしょう。児童一人一人がどのように自分の命を守る力を身につけることができるか・・?学校一丸となって、生き生きと取り組む様子を取材しました。

校長の桑原 智子先生

防災担当職員の手島先生(左)と齋藤先生(右)

-防災教育に取り組んでいこうと思われたきっかけは?

学校で防災教育というと「避難訓練」が思い浮かぶのではないかと思います。避難訓練は、災害が起こったと想定して学校放送をし、児童生徒が所定の場所に速やかに移動する、という方法が多いのでは?たいがい、訓練の時には先生が「走らない!押さない!」など注意しながら(笑)。でも、肢体不自由特別支援学校の児童は、走れないし、押したりすることもできない。自力で、避難場所まで移動できる児童も少ないでしょう。だとしたら、どんな災害時を想定した訓練が必要なのだろうかと思いました。

-肢体不自由の児童にとっては、どんな災害対策が必要なのでしょう?

「防災教育」は数年間実践して終わり、というものではない取り組みだと思います。防災教育は大災害でも起きない限り、どのように役立ったかは判断できないため、成果が見えにくいと思われがちですが、実際は様々な生活の中につながっていくものだと思っています。災害が起こるその時をリアルに想定し、そのとき、どのような意識を持ち、適切な行動につなげるのか、大人(先生・保護者等)・児童それぞれ考えることが重要だと思いました。

職員の意識を高めるために、校内で起こりうる防災箇所をまとめた表をいつも廊下に展示している

生き残ってこどもの命を助けること

-これまでの「防災教育」とは違ってくるところがありそうですね。

そうですね。災害時、自分の命を自分のチカラで守ろうとすることが大切です。それは、肢体不自由児も、自分でできることを災害時にもできるようにすることが求められると思います。そして、大人・・。先生や保護者も、自分の命を守って、言い換えると、生き残ってこどもの命を助けられるようでなければならないのです。「命をどう守るか」「命をどう助けるか」これを明確な目的に設定すると、その方法を具体的に考える必要が出てきました。

防災頭巾は常時、車いすに取り付けている。元はレッスンバック。持ち手を外して二つに折り、スナップで止め、ゴムで車椅子のハンドルに背負わせるイメージ。保護者がアイデアを出してくれたものだ。

-チャレンジプランはどんないきさつでやってみようと思われたのですか?

私自身、東日本大震災の時は、前任校にいたのですが、その揺れを体験して、とても怖かったのです。この怖さの中で冷静に対応するには訓練が大切と思いました。本校には災害用の備蓄をもともと備えていた学校でした。震災直後に本校に異動してきましたが、防災に対する対策を改めて考え、必要に応じてマニュアルの改訂なども試みているところでした。私の担当分掌で「防災マニュアルの改訂」や「防災教育のプログラムの開発」に取り組みを始めようとする頃、内閣府の防災教育チャレンジプランの募集があることを知りました。チャレンジプランの実践例を見ていくと関東圏の特別支援学校では、東京都や千葉県、神奈川県の学校での実践例がありましたが、埼玉県はありませんでした。また、全国的にも肢体不自由特別支援学校の取り組みもありませんでした。それなら本校がやってみてきっかけとなろうと思いました。

 

齋藤さんがまとめた防災教育チャレンジプラン報告書

-特別支援学校としては大きなチャレンジだと思いますが、体制はどのように創られたのですか?

校内組織を見直し、防災対策・防災教育を主に取り組む防災部を改編しました。本校の防災に関しては防災部が様々な提案をしています。また、防災対策検討委員会を立ち上げました。定期的に各担当が集まり、それぞれの立場から本校の防災についての取り組みを検討しています。「防災教育」を本校の先生たちが、様々な方向からあれこれ話し合って、肢体不自由特別支援学校の「防災教育」の目的を考え、目的に向かって、何をしたらよいのか方法を沢山導き出したいと思っています。個人的には、男性中心だったところにちゃっかり入り込んで「女子だからできる防災」なんていうことも考えていて、男女それぞれの視点で協力しながら取り組める「防災教育」もきっとあるぞと思っています。

 

 

「支援力と受援力」両方=「生きる力」

-防災教育の目標はどのように考えられているのですか?

防災教育の目的は、「生きる力」をつけることと考えています。「生きる力」とは、災害時にあっても、「支援力」を身に着けていることと「受援力」を身に着けることです。これは、特別支援学校に在学する児童だけに当てはまることではなく、保護者も先生もすべての人が持つべき力だと思います。災害時は、誰もが被災者となります。身近な人を支えようとする気持ちを持ち、行動することが求められます。また、重要なのは「受援力」。誰かの支えを受ける力です。特別支援学校の児童にも、ひとりひとり有する力が違っても「支援力と受援力」両方を身に着け、「防災教育」のなかで「生きる力」を蓄えていって欲しいと思っています。

このような教育を学校で児童生徒にしていくためには、先生にも、ひとり一人の生徒をより一層観察し、生徒の持つ力や伸びていく可能性を見出して、指導する必要があります。「教育」とは、何ができるのか?どうしたらできるのか?考え、育てるもの。「防災教育」は学校での教育活動全てに繋がっていて奥が深く、とても意義あることだと強く感じるようになりました。

 

-日高特別支援学校では「災害時につけさせたい9つの視点」としていますね。

はい。共立女子大の「セルフケアパッケージー肢体不自由児用―」の9つの力を基に職員研修で本校の先生から出た意見等を加えています。訓練や防災教育の場面でもこれらの視点を元に考えて取り組んでいます。

1 身を守る
頭を守ること・机をつかむこと/ 頭巾をかぶれるように慣れる
体調を整える/避難できる方法がわかる/危険な場所・安全な場所がわかる
空調設備・窓を避け、教室の中央に集まる/(教職員と共に)周囲の環境を整える

2 緊急事態を察知する
災害の知識(災害発生のメカニズムがわかり予測できる)/日常の中で知識を伝えていく
緊急地震速報を何回か聞かせてこれは緊急事態の時の音であることに気づかせる/
分かりやすい絵本や紙芝居を見せる/ 逃げ道を探すことができるか/まず逃げる/
起こりやすい災害の種類がわかる

3 必要物品の活用
マスクの必要性。マスクと頭巾を一緒に携帯する。タオル等の代用も。/防災頭巾に慣れる。
頭を保護するものが被れる(毛布、クッション、帽子等)/靴がはける
非常持ち出し袋の準備ができる/非常食を食べることができる

4 他人のチカラを借りる
助けを求めることができる/声を出すことができるか/校内ではできていても校外ではできるのか?/大人が指示しないとできないのではないか/何を支援してもらうか、何が必要かを伝えることができるか/自分の言葉で表現できるか/保護者・教職員の指示に従えるか/保護者・教職員に意思表示できるか

5 落ち着いた行動
落ち着いてその場で待機すること/身近な大人のいうことが聞ける
集中して話を聞かなくてはいけないときがわかる/自分がおちつくための方法がわかる状況に合わせた行動がとれる

6 自立した行動
自分でできることは行う/守ってもらうだけでなく、守る意識をもつ/慣れない場所でも自立した行動がとれる/状況に合せた行動がとれる/トイレや水分補給等の要求を身近な大人に伝えられる/自分でできること、できないことを人に伝える

7 周囲の状況の理解
災害発生時の周囲の状況を知る/災害により身の回りに起こることが分かる、予測できる/いつもと違う環境が分かる/正確な情報を獲る手段がわかる/危険を意識できるか

8 連絡手段の獲得
連絡先がわかる

9 自己受容できる
自分の体調がわかる/避難(移動)に必要な援助が分かり、受け入れることができる/自分の気持ちを表現できる

 

やるからには楽しんで

-今年7月の防災体験プログラムは、たくさんのご参加がありましたか?

昨年度に引き続き、今年で、第2回目となりました。
今回は本校児童生徒24家族、1団体の合計64名、外部講師を含む24名を加えて合計88名の参加がありました。職員防災研修も兼ねていたので合計で150人以上の参加になりました。当日は暑さが予想されたため、冷房の効いた校内での実施に変更して行いました。NHKや飯能日高ケーブルテレビも取材に来てにぎやかな1日でした。

始まりの会では、吉本興業&COWCOWさん公認の「あたりまえ防災たいそう 日高バージョン」で準備体操をしました。さあ、これから防災体験プログラムが始まるよ~!歌と振付けて身の守り方を確認します。日高の子どもたちはお馴染みですが、参加された保護者の方たちには初披露でした。そして、防災について考える一日のきっかけとなるように自己紹介と共に「我が家のオススメの防災グッズ」の紹介もお願いしました。

 

防災担当職員による「あたりまえ防災体操」あたりまえ~あたりまえ~ あたりまえぼうさい♪

 

電池がなくても手で押せる懐中電灯。ラジオも携帯電話の充電もできる優れもの。

 

―防災あたりまえ体操、楽しく覚えやすくいいアイディアですね!
当日会場にはたくさんのブースが展示されたそうですが、皆さん、どんなことに関心をお持ちでしたか?

救命ノート

参加した方から人気が高かったのは「救命ノート」という大阪市消防局の作成したiPadのアプリです。これでAEDの使い方と心肺蘇生の方法を学ぶことができます。「(自分で)実際にはできないかもしれないけれど、方法を知っていれば人にやり方を伝えて自分も人命救助することができるかもしれない」という感想をいただきました。イザというとき慌てないように知っておくことも大切ですね。

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防災ゲーム  うさぎ一家の防災グッズえらび リアル版

このゲーム(災害救援ボランティア推進委員会)は簡単に取り組め、さまざまな気づきを与えてくれるのでお勧めです。昨年度はイラストから選ぶだけでしたが今回は実物も用意しました。実際選んだものをリュックに詰めてみたら……重いですね。リュックもあえて2種類用意しました。男性は15キロ、女性は10キロが目安と言いますがそれを背負って避難できるか試してもらいました。

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災害時の医療

光の家療育センターの看護師の方のブースも好評でした。自前の発電機を用意し、大型の扇風機を動かして災害時の電力確保についての説明がありました。

災害医療のミニ講座は「これをメインにしても」「もっとお話を聞きたかった」の声も多く、大好評でした。参加者が多く、急遽椅子の用意をしたほどです。災害時に起こるリスクを知り、どのような備えをしておくか、またわが子を守るための方法のひとつとして「ヘルプカード」の作成、ソーシャルメディアの活用などを紹介していただきました。

 

停電時のペットボトルを使った手動吸引器の紹介

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暗闇体験

暗くした教室内をわざと畳などで道幅を狭くして、ガラスに見立てたペットボトルを撒きました。さらに上から布を下げ、火災の時の煙に見たてました。1学期の避難訓練でも取り組んだ火災の身の守り方のおさらいの意味もありました。身を低くして通り抜けること、暗い中で足元に注意すること等の体験ができました。

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ダンボール製品の紹介と居場所作り

福祉避難所体験では、本校の福祉避難所の基準でもある一人あたり3㎡を車椅子のまま、または床におりて過ごす体験をしています。パーテーションとしてよくある段ボールを活用しました。実際に震災で避難所のパーテーションやベッドなどを提供したと言う市内のダンボール会社さんに御協力いただき、展示してもらいました。ベッドやトイレはさすがに丈夫で居心地もよかったです。隣では、よくあるダンボールを使って自分の居場所作りを体験してもらいました。手軽に入手できるダンボールは使い方無限大です。

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災害時用トイレ作り

昨年度展示したダンボールや発泡スチロールで作成した災害時用トイレを展示して体験してもらうとともに、実際の作り方を簡単に体験してもらいました。吸収体はタオルでも紙おむつでもペットシートでも!座る部分を丈夫にすればゴミ箱やせんたくかご、椅子でも何でも作れることを知っておくと困らないのでは? トイレ用のテントはやはりまたぐ場所が課題になりました。他の工夫が必要です。

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最後にこの防災体験プログラムを共に企画したPTA防災委員会のお母さんたちが作成したクイズを行いました。全員で〇×クイズで盛り上がりました。参加した講師の方やボランティアさんと一日を振りかえった終わりの会では、一体感を味わうことができました。帰りがけに修了証と、防災豆知識にもなる「おさらいお土産シート」を配布させていただきました。
今年も防災について考える「熱い」一日にもなったと思います。

 

対応力を高めていくために

―短時間での訓練も定期的に行なっているのですか?

これまで本校で3年半ほど取り組んでいる緊急地震速報を用いたショート訓練は、季節や天候にとらわれず、本校の児童生徒の負担を極力減らした短時間で行う訓練です。年間6回程の計画で、その1週間は抜き打ちで訓練を行います。様々な場面での訓練を行うことで地震発生時の対応力を高めていくことをねらいとしています。

頭巾を渡すと自分で頭を守る姿勢をとる児童。「ダンゴムシのポーズだよ」と言いながら…。

 

登校指導中のショート訓練。そばにいた教員が身を守る行動を児童生徒と一緒にとる。各自周囲の安全にも気を配っていた。

第2回のかわせみ防災タイムは避難訓練後に火事と煙の話を指導。煙に見立てた布をくぐる学習している訓練の様子

 

今年度からの取り組みとしては本校の防災教育を一本化し、「かわせみ防災タイム」として年間計画を立てて年間10回ほど実施予定です。この取り組みを年度末にまとめて、HP等で見られるようにする予定です。

―取材後記

日高特別支援学校の防災の取り組みは、学校生活の中で日常的に行われていました。このことは、単なる防災訓練にとどまらず、肢体不自由のこどもたちの「生きる力」を高めていると感じました。

災害という予測のしにくい事態に対して、生徒が、どんな状況になるのか?その状況から、どのようにして命を守るのか?先生方が一人一人の子どもを観察され、こども達も自分自身にどのような困りごとが生じるのか認識し、どのような支援を受けたいのか、受けるためにはどうしたら良いのかという「受援力」を高めます。

支援してもらうだけではなく、支援を適切に受けられる主体的な「受援力」を育てることが肢体不自由のこどもにとって大切な教育であることも強く感じました。

取り組みが、日常的であるからこそ、学校の先生方がチームとなり行わなければできません。また、保護者や地域の理解と協力も不可欠です。これらすべてが実現されているのも、日高特別支援学校の防災の取り組みの優れたところだと思います。目的が明確で、その目的の実現のために、様々な相違工夫されたプログラムが計画的で継続的に行われているからこそと思います。

取材させて頂いて本当にありがとうございました。
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今年度の「ぼうさい甲子園」で、日高特別支援学校が小学生部門の優秀賞に選ばれました!
▼毎日新聞 地方版 (2015年12月11日)記事 (毎日新聞許諾)
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埼玉県立日高特別支援学校
http://www.hidaka-sh.spec.ed.jp/

 


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